case analysis -a.m-
んっ…
……
んぅっ…っ…
…ふぅ。
いっぱい出ましたね。
最近ご無沙汰だったんですか?
…ええ、私で良ければ、いつでもお相手しますよ。
あの…すみませんが、お手洗い、行ってもよろしいかしら?
…はい。ありがとうございます。
あ、時間の方はご安心ください。加算されませんから、大丈夫ですよ。
では、すぐに戻ってきますね。
…お待たせしました。
そう言えば、時間の方まだ残ってますよ。
どうしますか?
…はい、そうですか。
ええ、大丈夫です。五分くらいの休憩でしたら、その後でもまだ充分に時間は残ってますよ。
…そんな、心配しなくてもいいですよ。
では、何かお話でもしましょうか。
…そうですね、もう二年近くになります。
最初は、計理の仕事をしていたんです。
…大手の、文房具メーカーに勤めてました
夫に先立たれて以来、私は女手ひとつで娘を育ててきました。
けれど、辛いと感じることはありませんでしたよ。
夫が残してくれた宝物ですから。
お母さんお母さんって…ちょっとぼんやりさんですから、よく私を困らせてくれました。
本当に、可愛い子です。
お小遣いを渡す時、いつも言われるんです。お母さん、こんなにもいらないよって。
子どもながらに、お金の心配なんてしてくれるんです。
だから私は笑顔で、心配しなくてもいいですよ…って。
それでも、お小遣いの半分くらいしか受けとってくれないんですよ。
仕方がないので、その半分は貯金して、あの子の服や身の回りのものを買ってあげてます。
私が何か服を手渡す度に、こんなにしてくれなくてもいいよって言うんです。
でも…その後には、ありがとうって言ってくれますから。
そういうのも、ありですよね。
これからもふたりでやっていける。そんな自信はありました。
けれど…。
ええ、先の大不況で、突然会社が不渡りを出してしまいまして。
私は突然、職を失ってしまいました。
それから、どこにも働き口がなくて…。
……。
…あ、心配しないでください。
今では、この仕事に誇りを持ってますよ。
お客様に楽しんでいただければそれだけで、私は幸せです。
……。
…ですが…。
先日、私の姉の息子をしばらくの間預ることになりまして。
…ええ。とっても良い子です。
それで、私の娘とすっかり仲良くなって。
…なんだか、嬉しいはずなのに、どこか寂しくなったんです。
ふたりの帰ってくる時間が、日に日に遅くなってきまして。
それでも私は、ふたりの幸せのためならと、精一杯笑顔を続けてきました。
ふたりも、とっても暖かい笑顔を私に向けてくれます。
……。
…寂しいのは、あの家で、私ひとりだけなんです。
その事に気付いた時…。
…ちょっとだけ、泣いてしまいました。
もしふたりが大きくなって家を出たいって言っても、私は引き止めはしないつもりです。
大きな家に私ひとり、のんびりと暮らすのも悪くないかなって。
時折、ふたりが家に遊びに来てくれるんです。自分たちの子どもと一緒に。
それで、顔中満面の笑みを浮かべながら、おばあちゃんって。
…そんな幸せも、私は良いと思ってます。
…あ、すみません。
ちょっと話が過ぎましたね。
今はもう大丈夫ですから、お気になさらないでくださいね。
あらあら、しぼんでしまいましたね…。
けれど、休憩取りましたもの。もう大丈夫ですよね?
…時間、ですか?
大丈夫ですよ。満足させて差し上げますから。
では、前の方、失礼しますね…。
end.
Written by 山本 学
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