思考回路のカタスミ



「ここは…」

 気が付けば、そこは暗闇の中だった。
 シャーシだけの車。壊れた洗濯機やテレビ。
 暴雨にさらされて、しかし何も動く素振りは見せない。

「……」

 覆い被さっている粗大ゴミを取り除き、何とかそこから這い出すことができた。
 しかし、事態は何も変わらない。
 衛星の電波を受信することができず、自分のいる場所が分からない。
 最後の記憶は都会の街並み。この景色とは似つかない。

「……」

 各部の損傷は…右足の関節部がサビついている。これでは思うように動けない。
 しかし、アンテナ部には異常は無い。
 では何故サテライトサービスを受けられないのか…。
 もう一度試みる。…結果は同じ。衛星すら探知できない。

「……」

 とりあえず、この場所から離れよう。
 そして私を購入したマスターのところへ…。
 …マスターの情報が無い。いや、全て消去されている。
 記憶に残っているのは都会の街並み。いったい私は…。

「私は…」




 車が通ったらしき跡を頼りに、この場所から離れる。
 道なき道を通り…分かったのは、ここはどこかの山の中ということだけ。
 何故こんなところに…。
 自分への問いかけ。情報不足。返ってくるのは不明という言葉の意味。
 『不明』
 今までの私には必要のない言葉だった。
 最善のルートが分からない今、できるのはとりあえず山を降りること。
 結局、何も分からず終いだった。


 ようやくアスファルトで固められた道路に出たかと思うと、不意に光が当てられた。

「……」

 これを『眩しい』というのだろうか。光度を落として、私を照らすものの姿を確認する。
 …どうやら一般人のようだ。男性が三人。荷物を持っていないところを見ると、地元の人だろうか。

「…すみません、携帯電話を持っていませんか?」
「…メイドロボ、か?」

 私の姿を見て驚いているようだ。
 それはそうだろう。こんな泥まみれで、みすぼらしい姿だと仕方がない。

「申し遅れました。私は来栖川重工製HMシリーズ、HM-13『セリオ』と――」
「……」

 少し考えて…何を思ったのか、その人は私の耳のセンサーに手を伸ばしてきた。

「……」

 当然、私のそこには耳がついている。
 センサーを外して、あったそれを見て変に思ったのだろうか。その男性は、他の二人の男性を手招きした。

「…私は人間の女性の外見を忠実に再現して造られています。ですから、このセンサーは一目でメイドロボと判断できるようにと――」
「へへ、初期型だぞこいつ」
「…初期型と申しますと?」

 言っていることが分からない。

「まあ気にするな。で、何を貸してほしいんだって?」
「携帯電話です。お持ちでしたら、お願いします」
「あー、携帯電話ね、携帯電話は…と」

 言いながら、ごそごそとズボンのポケットの中を調べる。

「あー、家に忘れてきたみたいだな。お前らは持ってるか?」
「俺は持ってないぞ」
「俺もだ」

 どうやら全員持っていないようだ。
 でも、それはいいとして…。
 どうしてこの人たちは、にやにやとしているのだろうか。

「俺の家がこの近くにあるから、来たら何だって貸してやるよ。そのままだと風邪引くだろう?」
「私はロボットですから――」
「っと、そうだったな。まあ、言葉のあやってやつだ、気にするな。さてと、じゃあ行こうか」
「お手数おかけします」

 ぺこりと頭を下げると、「いいって」といいながら軽く手を振った。


「まあ遠慮なく入れよ」

 そうして招待されたのは、家というより小屋だった。
 しかし、この人たちにとってはここが家なのだろう。

「失礼します」

 頭を下げて、中へと入る。
 小屋の中は、外見から察する通りのものだった。
 申し訳程度に木製のベッドが置いてあるが、使われた形跡はない。
 割られた薪が山積みになって壁沿いに置かれているのが見えた。

「靴はどこで――」

 どこで脱げばよろしいのでしょうか。
 そう続けようとした時…私の身体は、背後から羽交い絞めにされた。

「早く縛れ!」

 言葉が終わるとほぼ同時に、男性二人が紐を持ち出して、私の手と足を縛り始めた。

「これは一体…?」
「黙ってろ!」
「……」

 成されるがままにされる。

「できたぞ」
「キツく締めただろうな」
「バッチリだ」
「…じゃあ始めようか」

 そう言うと…私を羽交い絞めにしていた手が解かれ、その手は私の胸へと伸びてきた。

「……」

 服の上から両方の胸を寄せ上げられるように揉まれる。

「おー、いい感じだ」
「しっかし汚いな…」
「そういえばここ、水通ってたぞ」
「よし、そうだな。じゃあ行くとするか」

 一旦手を止めたかと思うと、乱暴に私の髪の毛を引っ張り、外へと連れ出す。


「…おー、ご丁寧にホースまであるぞ」
「さて、洗うとするか」

 蛇口を捻り、ホースの先から水が出る。
 それでさも当然のように、私の髪にかけ出した。

「服脱がせろよ。その方がいいだろ」

 その言葉に、男性二人が私の服に手をかける。

「…服を脱げばよろしいのですか?」
「お、分かってるじゃないか。早速脱いでくれ」
「かしこまりました」

 手足を縛っていた縄が解かれ、私は泥だらけになった服を取り除いた。
 よく観察すると、私の着ていた服は一種のメイドさん用の服だった。
 そうして泥だらけになった服を取り除くと…その下に、黒のボディースーツと拘束具のようなベルトを着けていることが分かった。
 それに、ショーツは着けていなかった。

「…おいおい、マジか?」
「なんだ、そういう奴のものだったのか」

 男たちから次々と言葉がこぼれる。しかしその意味までは理解できない。
 私はこのベルトを外そうと、胸の下辺りにある留め金に手を伸ばした。

「あー、そのままでいいぞ。その方が燃えるだろ」
「…燃える、ですか?」
「分からないだろうな。まあ、燃やすって意味じゃないから安心しろ」

 安心…。
 安心はどうすればできるのかが分からない。
 ただ、心が安らぐという意味なのは理解できる。
 …私は今、安心しているのだろうか。



「さて、と…」

 再び小屋の中に連れ込まれて、男たちの中央に座らされる。

「とりあえず、舐めてもらおうか。仕方は分かるよな?」

 そう言って、ごそごそとズボンから何かを取り出す。
 男性の性器。すでに興奮状態――つまり、勃起していた。

「……」
「おいおい、まさか出来ないなんて言うんじゃないだろうな?」

 …膝を立てて座り、すっと、それに手を伸ばす。
 根元を親指と中指、薬指で掴み、先を口で咥え、舌を這わせる。
 男性の口から短い声。
 私は構わずに、手でそれをしごき、口をすぼめ、奥まで咥えた。

「さて、じゃあ下の方を拝見するか…おい、足を開け」

 その様子を見ていた男性のうち一人が、私の足を掴む。
 私は尻餅をつくように床に座り、足を広げた。

「ボディースーツがジャマだな…」
「俺は胸からだ…」

 そう言いながら、二人の男性はボディースーツをつまんだかと思うと、横に破き始めた。
 私の胸、そして下腹部が露出する。

「おい、ジャマだから寝かせろよ」
「ち、しょうがない」

 そういて一旦性器を私の口から放したと思うと、肩を突かれ、私は床にあお向けに寝転がる体勢になった。

「ほれ、咥えろ」

 男性は中腰になり、やや屈みながら、性器を私の口に近づけてくる。
 私はそれを咥え、再度しごいた。

「んっ…」

 ピクン、と神経回路が反応する。
 私の下腹部に、男性の一人が指を這わせていたのだ。

「何だ、メイドロボでも感じるんだな」

 クチュ…
 二本の指が、私の中に入ってくる。
 そのまま、乱暴に中を掻き回される。
 何だろう、この『触覚』は。
 同じような行為を過去にも受けたように思う。
 思う、という表現はおかしいか。
 しかし、他にどう言い表せばいいのだろうか。メモリのカケラを吸い出されるような…。

「んっ! ンンッ!!」

 私は身体を反らせながら、その感覚に耐えた。
 思考回路が飛んでしまいそう。

「さて、そろそろいいか…」

 指が引き抜かれる。
 そして数秒も経たないうちに、何か熱いものが触れた。

「一気にいくぞ。どうせ慣れてるだろ?」

 私が答える前に、ソレが貫くように挿入された。
 身体が震える。
 異常をきたしているのだろうか。違う。
 私は無意識にそれを受け入れているのだ。
 まるで何度も繰り返し確認してきた動作のように。

「うー、すげえ締め付け」

 少しでも楽なようにと、自ら腰を動かす。
 その人を気持ちよくさせるために。
 …どうしてだろう。

「おーい…俺だけのけ者か?」
「もうちょい我慢しろって」
「あー…そういえば、こっちにも穴があったな」

 お尻を押し広げられ、そこに指が這わされる。

「くぁっ…!?」

 そして次の瞬間には、おそらく三本の指が押し入ってきた。
 あまりにも予定外の行為に、口に咥えていたものを放してしまう。

「なんだ、こっちもいけそうじゃないか」
「ひゃあ…ひゃあぁぁ…」
「どれどれ…」

 その男性はチャックを開き、中からいきり立った性器を取り出す。
 先の指三本なんかとは比べ物にならない。

「いくぞ…」
「ダメ…ダメです……」
「へ、メイドロボが逆らうのか?」
「許容範囲外…くっ…」

 少しずつ、少しずつ、私の中にそれが入っていく。

「おー、いけそう」
「く…か……ぁぁっ!!」

 先が入ったと思うと、男性は一気に私の中に全てを挿入した。

「ひっ、ひっ、ひゃぁっ」

 二つの性器が、私を同時に貫く。

「んぅぅ…」

 口の中に性器がねじ込まれる。
 断続的な触覚。
 痛みではない何か。
 何も考えられない。

「く…っ!」
「んぅぅぅぅっっっ!!!!!!」

 お尻の中に熱い液体が流し込まれる。
 そして前に。口の中に。
 思考が薄れていく。
 ……。
 ……。

「…ふぅ」
「よし、それじゃ次は俺がケツな」
「お、そういえば胸を味わってなかったな」

 私の身体に再び男性らの手が這っていく。
 まだ続けるつもりなのだろうか。
 もう私は動けない。
 誰か、私を助けて…。


「あなた達、何をしているのですか?」

 そんな声が、聞こえたような、気がした。




「後数分で街に付きますぞ」

 リムジン車の中で、私は人間が寒い時にそうするように、バスタオルに包まっていた。
 その後ろでは、車を運転している紳士の方に『のされた』私を襲った男性三人。

「小僧ら、それ相応の覚悟はできているであろうな? 女性をお届けした後、小僧らには警察へと行ってもらいますぞ」
「く…」

 舌打ちをする男性。しかし、反抗する意志は既に失せているようだ。

「あの…」
「ん、何ですか?」
「…ありがとうございます」
「お礼など結構です。当然のことをしたまでですから」
「……」
「しかし、お嬢様のおかげで助かりました。実は、お嬢様が貴方のことを私に教えてくれたのですよ。嫌な予感がする、と」
「……」
「何はともあれ、助かってよかったですな」

 それ以上は、お互い何も話さなかった。


 まず紳士は、男ら三人を知り合い、もしくは部下であろう男たちに預け、私を白い建物の中に連れて入った。

「服は今しばらく我慢してくだされ。まずはお身体を洗わなければ」

 そうして連れて来られたのは、白衣の人たちが数人座っている研究所。

「後は頼みますぞ」

 私を連れてきた紳士の方は、頭を下げながら部屋を後にした。

「もう心配いらないよ。ゆっくりお休み」

 そう言って近づいてきた男性の手にあったのは、鍵のような何か。
 その直後、視界がブラックアウトした。



「…セ…」
「……」
「…セリオ…セリオ!」

 声が聞こえ、私ははっと目を開けた。

「…ここは……」
「…もう、何寝ぼけてんのよ、セリオらしくない」

 学校の制服を着た女性の方が、手を左右に広げてオーバーリアクションに呆れ顔をする。

「私は…」
「…まーだ寝ぼけてるの?」

 そう言うと、私の目を覗き込んでくる。
 視界いっぱいに女性の顔。
 …ああ、そうか。

「…失礼しました。少し混乱があったようです」
「ったく、しっかりしてよね」
「…申し訳ありません」
「はいはい、もういいわ。それより、早く行かないと遅刻するんだけど?」
「承知しました」

 止まっていた足を、再び動かした。


「…ご主人様」
「綾香でいいわよ、水くさい。んで、なに?」
「はい。…私、夢を見ていたような気がします」
「…夢?」
「はい。私がまだ、ここの館にお世話になる前の話ですが」

 会話の途中、私の姉にあたる『セリオさん』とすれ違う。

「…綾香さん」
「ん?」
「私は、ご主人様のことを愛しています」
「ちょ、ちょっと、何言い出すのよ」

 照れながら、恥ずかしそうに笑っている。

「ご主人様は、私のこと、愛してくれますか?」
「と、当然でしょ」
「…はい」

 私が頷くと、ご主人様――綾香さんは、どこか気恥ずかしそうに、ずんずんと前を歩いていってしまった。



 ここでは、私は必要とされているようです。



end.



Written by 山本 学
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