ちいさなたいけつ
くだらない、といえばそれまでになる。
けれど、悔しいと思ったことを否定する気はない。
私はもうすぐ十八になる。
勉強のほうはぼちぼちで、一般より上、といったそれ。
しかし一応は、進学に向けて日夜勉強に励む受験生だ。
彼氏はいない。色恋などは大学に入ってからでも遅くないと教師は言うが、私もその通りだと思いこむことにしている。
当然、遊びにいく時間なんて。
…だからだろうか?
デパートの文具店からの帰り道。
その隣にあるアミューズメントブースの、クレーンキャッチャーに目が惹かれたのは。
「…カワイイ」
ガラスに右手を付けて、私はそれに見入ってしまっていた。
ぬいぐるみによって築かれた山の頂上に、ピンクのワニがちょこんと座っている。
それは何故か、私に優しい笑顔を向けてくれているような気がした。
「……」
ふと我に返り、私は周囲を見回した。
普段からクールなイメージで通っている私が、まさかピンクのワニに見とれていたなんて噂が広まっては、恥ずかしくて学校に行けやしない。
幸い、見知った顔はない。私はほっと息をついた
「……」
そして再び、ピンクのワニに向き直る。
…やっぱりカワイイ。
「…取れる、かな」
…ゴクッ
喉が鳴る。
私はおもむろに、がま口の財布から百円硬貨を取り出した。
…大丈夫。あれなら、取れる。
クレーンキャッチャーなんて何年振りだろう。物心ついた時からしていない気がする。
あんなものにお金を使うなんてもったいないと、子どもにしては憎たらしい意見を持っていた気がする。
それなのに、私は今、こうして筐体の前に立っていた。
「……」
投入口にコインを入れる。
チャリン、と小切れの良い短波音。
ふと、おそらく理系の参考書で目にしたのであろう例の曲線グラフが頭に浮かぶ。
「……」
右向きの矢印に1と描かれたボタンを押すと、上部に取り付けられた機械が動き、一瞬遅れて吊り下げられたクレーンも後に続く。
思っていたより動く速度が早かったのでやや焦りながらも、無事狙いを付けることはできた。
後は、縦方向だ。
「……」
側面から覗きこむように身を乗り出して、ワニとの距離を測る。
単純な手だが、確実。この際、傍目は気にしないでおこう。
「……っ」
さっと手を離す。
少しの間も空けず、ピンクのワニ目掛けて降ろされていくクレーン。
閉じられていたツメが開き、ワニの側面を狙う。
「いって…っ」
ゆっくりと降下していくクレーンを、祈るような思いで見つめる。
そして――。
…くだらない、といえばそれまでになる。
けれど、悔しいと思ったことを否定する気はない。
「…どうして」
センサーが壊れていたのだろうか。
ツメはピンクのワニを押し退け、掻い潜り、ゴリラを掴み出してきたのだ。
ワニはというと、コロコロと山を転がっていき、あれではもう取れそうになり。
「……」
ツメが開き、ゴリラがシュートの中に落ちる。
祝福してくれるのか、チープなトランペット音が鳴る。正直、嬉しくない。
「…はぁ」
ため息をつきながら、ボックスからゴリラを取り出す。
…いうほど可愛くはない。ワニの方が良かったのに。
「……」
……。
……。
「…ま、いっか」
笑みがこぼれる。
取れただけでも良しとしよう、そんな事を小さく呟く。
思えば、こうして普通に笑ったのはずいぶんと久しぶりかもしれない。
いい息抜きになったと思えば、ゴリラもまた良いものだ。
ピンクのワニは、また今度取りに来ようか。
鞄の中に無造作にゴリラを積め込んで、私は足早にこの場を後にした。
fin.
Written by 山本 学
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